本作「靴に恋して」は女性映画として認識される類の、メディア流通をしているが、人生のターニングポイントで、ポジティブな決断を選び、生き抜くという本作のメインテーマは、性の異差はまったく意味を成さない。実際、男の私が鑑賞し、素直に主な登場人物たる5人の女性達の深層心理が手に取るように伝わってきた。本作が初の長編作品となる、スペイン期待の新鋭監督ラモン・サラサールが男性監督である事もその大きな要因ではないか?彼女達の間を行き来する3人の男性達の内、2人までがゲイであり、逆に5人の女性達に清々しい潔さを感じるのも本作の特徴。オシャレ感溢れるビジュアルやキャッチコピーに惑わされず、女性映画という意図的な括りを1回頭から外して、是非男性諸氏のご鑑賞をお願いしたい。
 履き心地の悪い靴(人生)を履き日々マドリードに生きる5人の女達。「扁平足の女」アデラ。マドリード郊外の売春バーのマダム。知的障害者の娘「スニーカーを履く女」アニータを抱え、未だ叶えられぬ夢、小説家を心の奥底で志している。親子の日常に高級官僚と看護士の2人の男がある日入り込んでくる。「盗んだ靴を履く女」レイレ。同棲中の男とのいざこざの中、仕事先のシューズブティックで盗んだパンプスを履いてのクラブ通いとドラックで気を紛らすも、本心はシューズデザイナー志望。恋の破局の末、何年かぶりに実家へ戻る。「スリッパを履く女」マリカルメン。夫の死後その意志を継ぎタクシードライバーとなり、先妻の残した子供達の生活を支える。ある晩、行方知れずの長女レイレが傷ついて帰ってくる。「小さな靴を履く女」イサベル。高級官僚夫人という煌びやかな表の表情とは別に、全く愛の無い夫婦生活を送る。マラカニアン宮殿でのイメルダ婦人を彷彿させる程の、靴数を所有するも、常に自身のジャストサイズより小さなサイズを購入する。全く境遇の違う5人の女性達が折り重なるストーリー展開の中、同時に大いなる決断の時を迎える。レイレの戻った家をマリカルメンが守っていた。会話を重ねる事で心が通じ合い2人はリスボンへの旅に出る。他の3人アデラ、アニータ、イザベルは豪雨の中、自身の履き心地の良い靴(人生)を見つける。やがて各々の靴を履き旅立ちの時を迎える。
 オムニバスではなく、1本のシナリオとして成立させた所に若手監督とは思えぬ力量を感じる。レイレ役のナイワ・ニムリに注目。