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春には一年の豊作を田の神に祈り、秋には稲の収穫を喜び、田の神に感謝するという農民たちの年中行事は、日本の祭りの原点となるもの。現代に残された昔ながらのこうした田の神祭には、昔の田仕事の様子も多く残っていて、日本人の伝統的な暮らしぶりをその中から再発見することができる。石川県・奥能登で行われる「アエノコト」も、そうした田の神祭のひとつで、田の神のおかげでたくさんお米が穫れたので、稲刈りが済んでから、田の神を家に招きもてなすという、民間における新嘗祭や祈年祭をしのばせる貴重な行事として伝承されている。輪島市町野町徳成で、十三代に渡り「アエノコト」を行っているという中谷省一さんは、手にくわを持ち、裃に袴姿で家の前の田んぼにひとり立つと「お迎えにあがりました」と、田んぼに声をかけ、田の神を迎える儀式をゆっくりとした動作で行いはじめた。「ここは大戸のしきりがあります。お気をつけてお入り下さい」などと話しかけながら、田の神の手を取るようにして座敷の神座(種籾俵)に田の神を案内する。なぜならば、田の神は夫婦神で、稲穂で目を突いたとか、長い間暗い土の中で働いていたために目が不自由になったと考えられているからだ。座敷きに招いた田の神に、まずはご馳走を捧げる。 豊作のシンボルの二又大根、ハチメという目玉の大きな魚を供える。新米で炊き上げた赤飯、 大根、里芋といった海の幸、山の幸、甘酒なども供えられ、ご馳走の品目ひとつひとつを説明していく。夕方になると、今度は一年間の田の土と汗を洗い落としてもらうために、田の神にお風呂に入ってもらう。手を引いて田の神を風呂に案内し、風呂の上で「田の神様、湯かげんはどうですか」などと語りかける。目に見えない神様を実際に目の前にいるかのごとく接待する様子はなんとも不思議なものだが、目の前に田の神がいるのかと思うと、神さまがだんだんと身近に感じられてくるし、「アエノコト」の世界に引き込まれていく。その後、田の神は床の間へと席を移し、春までゆっくりと休んでいただく。田の神は、その家でゆっくりと越年されると信じられており、2月9日になると「田の神送り」といって、再び同様の「アエノコト」を行い、豊年を祈り、田の神を送る。一般に「アエ」は饗応、「コト」は祭りを意味するもので、その儀礼の細部は、家々によって異なるが、すべての収穫が済んだ農家で厳粛に行われる「アエノコト」は、五穀豊穣を祈願し、豊作に感謝する農民の神へ奉仕 |