『メゾン・ド・ヒミコ』

各々の人生を抱え、
最期に辿り着く所「メゾン・ド・ヒミコ」
そこは海の直ぐ側。


文 ・ 遠藤聡明



「88」5号の巻頭インタビューにも登場願った田中泯による快演で話題の本作は、大ヒット「ジョゼと虎と魚たち」の犬童一心監督、渡辺あや脚本という最強コンビによる最新作。
 斜陽する我が国。晩年の生き方に皆不安を抱えながら、やがて来るその日まで享楽にその身を委ねるのも一考だろう。「メゾン・ド・ヒミコ」の住人たる初老のゲイ達もそんな日々の挙げ句、ここへと辿り着いてきた者達ばかりだ。伝説のゲイ・バー「銀座・ヒミコ」を突然畳んだマスターのヒミコ(田中泯)は海辺の小さなホテルを買い取る。ヒミコを頼りに多くの老ゲイ達が各々の人生を振り切るようにそこへ集う。ヒミコには別れた妻(既に死亡)との間に一人娘沙織(柴咲コウ)をもうけていた。母の悲惨な死を理由に父親ヒミコを憎悪する沙織にある日美しい青年春彦(オダギリ・ジョー)が訪ねてくる。父ヒミコは末期癌で余命幾何も無く、恋人たる自分は2人をなんとか引き合わせたい、と告げる。
 当初、戸惑いを見せた沙織だったが意を決しゲイの巣「メゾン・ド・ヒミコ」へ向かう。ゲイ独特の世界に困惑する沙織も彼等の世話をするうちに性別、嗜好を越えた友愛が芽生える。父の恋人春彦との淡い恋心と、父に対する憎悪の果て沙織が見た真実とは?
 常時不機嫌な柴咲が時折見せる笑顔が素晴らしい。濁った日常の狭間で見せるイノセントで目映いオダギリも好演だ。そして田中の演技を越えた聖なる疑似死体としての、生身な身体表現は白眉!
 ゆえに、この映画に貫かれているモノは清濁渾然一体な中に浮かび上がる微かな真実ではないだろうか? カッコ付けずに簡単に言おうか? 「海が全てを洗い流してくれる」その方がこの映画に絶対ピッタリだ! 衣装・北村道子、音楽・細野晴臣の優れた仕事も必見必聴!


監督:犬童一心
脚本:渡辺あや
衣装:北村道子
音楽:細野晴臣
出演:柴咲コウ、オダギリ・ジョー、田中泯、歌澤寅右衛門他
2005年/日本映画/2時間11分
配給:アスミックエース

渋谷シネマライズ他全国好評ロードショー中


『もっこす元気な愛』

僕らはみんな生きている

文 ・ 片岡真由美



  熊本在住の脳性麻痺の青年、倉田哲也を追ったドキュメンタリー。手や顔の動きを自分で制御しきれない哲也は、足で字を書き、食事もできる。くまもと「障害者」労働センターという作業所を設立し、ポリオで左足に障害のある亮司と共同生活をしている。小学校教師の美穂という4年越しの恋人がいるが、美穂の母親は結婚に大反対だ。
 笑っちゃう場面が幾つもある。2年越しの挑戦で遂に自動車運転免許を取った哲也が、彼より前に免許を取得した脳性麻痺の友人に会いに行く。自分とまったく同じような体の動きをする友人が家から出てくると、すかさず哲也は満面の笑顔でカメラに向かって言う。「うふふ、僕とそっくり!」
 免許取得は試練の連続だったが、美穂の母親に自分を認めてもらう一助になればという思いもあり、悔しさや困難を乗り越えて勝ち得た。気負いなく、互いに支え合う2人の姿は、ごく自然に観客の胸に響いてくるが、免許取得を持ってしても揺るがないお母さんの心情も、また察して余りある。
 寺田靖範監督は、93年に自身の結婚体験を記録したドキュメンタリー『妻はフィリピーナ』で日本映画監督協会新人賞を受賞。異国の嫁を得ることで生まれる家族との軋轢などを、声高にでもなく淡々と描いてユーモアあふれる人間物語に結晶させた秀作だった。ひさしぶりの劇場公開作になるこの作品でも、声高な主張を盛り込むことは一切ない。
 ただ、自分とは異質に見える人に、つい身構えてしまったり、色眼鏡で見がちな私たち大多数の観客の心を、ゆっくりとマッサージするように解きほぐしていく。そのメッセージはただひとつ、みんな同じ人間、だ。
 果敢に、楽しそうにドライブする哲也を見て、何十年もペーパー・ドライバーでゴールド・カードだった免許をうっかり失効させたばかりの我が身を、思わず省みる。





監督・撮影・編集:寺田靖範
録音・プロデューサー:神吉良輔
2005/日本映画/85分
問い合わせ:『もっこす元気な愛』

製作委員会 tel:03-3568-6239

ポレポレ東中野ほかにて12月より全国順次公開予定